心ときみの物語
探した理由はふたつ。
まずひとつは傘のお礼を言うこと。そしてもうひとつはあの台風の日から1週間が経つのに進が神社を訪れなくなったこと。
小鞠も安易にこんな姿を見せてはいけないと分かっていた。だけど笠を自分にくれたせいで親に叱られたのではないかと気がかりでいてもたってもいられなかったのだ。
進の家は川のほとりにある木造作りの家だった。改札には〝大塚〟と書かれているのに表からは進の匂いがしない。
小鞠はその嗅覚を頼りに家の東側へと回った。
そこの小窓から見える部屋は物置小屋のように色々なものが積まれていて、その真ん中に不自然に敷かれる1枚の布団。
と、その時。バシャバシャ!と川のほうから音がして小鞠が見に行くと、そこでは冷たい水で進が体を洗っていた。
『な、なにをしてるんですか……っ!』
慌てて小鞠が近づくと、伸びた手が一瞬止まる。
なぜなら進の体には赤い発疹が無数にできていて、かゆみで引っ掻いたのか血の痕も滲んでいた。
『きみは……?』
見知らぬ小鞠を見て進が首を傾げていた。
小鞠はすぐに口を開いたけれど躊躇って。返そうとした傘を背中で隠した。
『……こま……小鞠と言います。ただの通りすがりです』
とっさに思い付いた名前を名乗って自分の正体を隠してしまった。もし本当のことを言えば気味悪がられてしまい、二度と神社に来てくれないだろうと思ったからだ。