心ときみの物語
いっそのこと神社の狛犬だと話してしまおうかと考えた。だけど願っていた姿を盗み見していたようで、どうしても言い出すことはできなかった。
『えっと……わ、私、あの神社で働いてるんです!だから最初は通りすがりなんて言っちゃいましたけど、進さんのことも何度か見掛けたことがあったな、なんて』
つい早口になってしまった。
とっさに思い付いたデタラメなこと。こんなのすぐにバレるに決まってる、と思いきや進は……。
『だから小鞠さんは着物を着てるんですね!』
『へ?』
『白い着物なんて滅多に着てる人がいないから不自然に思っていたんです』
『あははは……』
笑ってごまかすしかなかった。
『神社で働ける人は純粋で、神様のご加護を得られる人じゃないとダメだって聞いたことがあります』
『………』
『だから小鞠さんにはうつらない気がします。僕の勝手な願望なんですけど』
治す薬もなく、どんどん広がっていくかゆみと病状に苦しみながらこの部屋に隔離されている進の気持ちは小鞠には分からない。だけど……。
『それと僕が願っていたのは病を治すためじゃないですよ。それはもう諦めてるのでせめて僕以外の人にうつりませんようにと神様に頼んでいたんです』
進は自分よりも他人を優先する心優しい人だったから。
せめてひとりで抱えこまないように、傘を貸してくれた恩にならないけれど……。
『進さん、私とお友達になりませんか?』
小鞠と進に縁ができた瞬間だった。