心ときみの物語
『す、進さん!とりあえず善は急げなので明日山に行ってみましょう!わ、私は帰ります!』
『え?小鞠さん?』
『それじゃ、お邪魔しましたっ!』
小鞠は尻尾を隠しながら窓の外に出て、そこから全速力で神社へと帰った。
元々変化(へんげ)ができる存在ではなかった。神社の狛犬としてそこに立つだけだったのにいつしか心が芽生えはじめて。
自分でもなぜそうなったのか、なぜ人の姿に化けられるのかが分かっていなかった。
だからこそ、その存在はまだ不安定で。気を抜いたり動揺したりするとすぐに形が崩れてしまう。
絶対に進にはバレたくない。
――『小鞠さんが来てくれるから僕は毎日楽しいよ。もう誰かと話をするのはムリだって思ってたから、本当に嬉しいんだ』
そう言ってくれたのに、その相手が変化をした狛犬だと知ったら進はどんな顔をするだろうか。
小鞠は全力で首を振って、とにかく明日のために体力を回復させようとその日は早く元の石像に戻った。