心ときみの物語


佳苗の手は震えていて、俺は脅すように言った。

『覚悟がないなら帰れ。これは遊びじゃねーんだ』

たまに好奇心だけでやって来るヤツがいるけど、本当に迷惑のなにものでもない。

べつに金を貰ってるわけじゃないし、噂が本当なのか確かめたい気持ちも分かる。だけどそんな好奇心で誰でもいいから縁を切ろうって考えちゃうヤツはマジで地獄に落ちろって思う。

俺が睨みつけたせいで佳苗は泣き出して、結果的に俺が悪者にされてしまった。


『どうぞ』

帰れって言ったのに小鞠が勝手に本殿の中に招いて。最終的にはお茶と俺の醤油せんべいを茶菓子として出しやがった。


『おい、どういうつもりだよ。ここで女子会でもはじめる気か?』

『せっかくエニシさまを頼って来てくださったんですから、話ぐらい聞いてあげたらどうですか?』

それが、あなたの仕事でしょ?という目。


小鞠がペラペラと話しかけるから佳苗の涙もすっかり止まって、俺の顔をじっと見始めた。


『あなたがエニシさまですか?』

橘佳苗の縁を切りたい相手の名前は椎名雪乃。
同じ高校に通う親友なんだとか。
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