心ときみの物語
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高嶺神社の本殿から離れた場所にある今は使われていない古びた建物。それを覆うように神木が生えていて、この場所は日中でも薄暗い。
賽銭箱には蜘蛛の巣が張り、ふたつ連なっている鈴乃緒は錆びついて音が鳴らない。
そんな忘れ去られた場所で、俺は呑気に醤油せんべいを食べながらテレビを見ていた。
「……さま。エニシさま!」
「あん?」
振り向くとそこには巫女の姿をした〝小鞠〟(こまり)がいた。
「今いいところなんだから邪魔すんじゃねーよ」
俺は20枚入りのせんべいの袋に再び手を伸ばすと、小鞠はグシャッとそれを取り上げて大音量のテレビも消した。
「まったく。電線を勝手に引っ張ってきて叱られても知りませんからね!」
「てめえは俺の母ちゃんか」
「こんな大きな音にしてるから気づかないんでしょう?」
「なにが?」
「来ましたよ。お客さん」