心ときみの物語
外に出ると絵馬を結ぶ掛け所にひとつの黒いものが。
俺はザッザッとサンダルで砂利を踏んで、その絵馬を手に取った。
「久しぶりじゃないですか?」
まるで自分の手柄のように背後から小鞠が顔を覗かせた。俺はそのおでこにデコピンをしてため息をつく。
「……うわ、面倒くさそう」
「制服姿の若い子、好きじゃないですか」
「こんな場所に来ちゃう子は好きになれないね」
〝裏絵馬〟なんて誰がそんな名前を付けたのか知らないけど、近頃ではそう呼ばれているらしい。
知らない人は知らない、知っている人は知っているこの黒い絵馬。そこに白インクのペンで書かれているふたつの名前。
椎名 雪乃(しいな ゆきの)
橘 佳苗(たちばな かなえ)
俺はもう一度ため息をついて「やっぱ面倒くせえ……」と呟いた。