心ときみの物語
清香の父親は大手IT企業の社長で。清香もそこで事務として働いてるらしい。俺でも知ってるような有名な会社で、またもやマジかって感じ。
ひとり娘でそれはそれは大切に育ててきたんだろうから、父親からしてみれば簡単には受け入れられないんだろう。
「それでも認めてほしくて何度も足を運びました。でも結果は同じ。ついには清香さんが怒って『お父さんとの縁は切る』って言い出して」
「………」
「最初は冗談だと思ったんです。でも来月で会社を辞めてあの家とは絶縁するってきかなくて。ふたりで駆け落ちしちゃおうかって笑いながら言う清香さんを見ると苦しくて……」
家のガレージには高級車が2台。
きっと沢城清香は小さい頃からお金に困らず、
なに不自由なく育ったんだって分かる。
「例え金がなくて不便になったとしても、それでもいいって清香は淳平を選んだんじゃね?」
俺がそう言うと淳平はうつ向いてしまった。
「僕といることで清香さんは不幸になってる気がするんです。それにただの営業で給料も安い僕を反対するお父さんの気持ちも分かります。清香さんにはもっとふさわしい人が……」
と、その時。
黒塗りのベンツが前方から見えて、淳平は慌てて俺を連れて物陰へと隠れた。