心ときみの物語
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「すいません!エニシさま遅くなりまして……」
昼休み時の賑わう街。OLやサラリーマンが財布を片手に交差点を行き交う中、淳平はまた慌てて俺の元へと走ってきた。
「お前は謝ってばっかりだな」
「ああ、よく言われます。癖なんですよね」
淳平は暑いのにしっかりと襟元までYシャツのボタンを留めて、ネクタイも緩めることはない。
俺たちは人混みを避けるように歩きはじめて、先に口を開いたのは俺のほう。
「決意は変わらねーのか?」
依頼者と俺との関係は長くて3日。
そう決まってるわけじゃなくて俺が勝手に決めたこと。ダラダラと馴れ合えば情が移るし、切るほうの俺が迷うことは許されない。
「変わらないです。清香さんは僕を選んだらダメなんです。彼女の家族や生活を奪うことなんて僕にはできませんから」
淳平はそう笑ったあと、考えるように3秒ほど無言になって俺にある言葉を投げ掛ける。
「エニシさまは人を好きになったことがありますか?」