心ときみの物語
「私は淳平くんがティッシュ配りやチラシを断れなくて街に行くとすぐ両手いっぱいになっちゃうところとか。自分だって2時間も並んだのにラスト一個を後ろの赤ちゃん連れのお母さんに譲ってあげたり。道に迷ったおばあさんに付き合って待ち合わせ場所に遅れてきたり」
「………」
「うちのお父さんにいくら罵られても必ず頭を下げて帰って、愚痴なんてひとつも言わない」
「………」
「そんなお人好しで騙されやすくて頼りないけど、だれよりも優しい淳平くんが私は好きなの!」
その瞬間、ふわりと暖かい風がふたりの間を吹き抜けた。
「そういうところを見て私はこの人と結婚したいって思ったの。淳平くんが私でいいのなら。淳平くんがまだ私を好きでいてくれてるなら、何度でもふたりで頭を下げにいこう!」
「………」
「駆け落ちなんて逃げることはもう言わない。何年経っても構わない。私は淳平くんじゃなきゃダメなの。私は淳平くんと結婚したい」
次に手を強く握ったのは淳平のほう。
頼りなくて、いつも自信がない顔をしていたのに、なんだか男らしい顔で清香を包むように抱きしめた。
「うん、結婚しよう絶対に」
ああ、虚しくなるほど綺麗なハッピーエンドを見たって感じだ。
縁を切るなんて冗談じゃない。そんな強く結ばれた縁なんて固くて切れねーよ。
俺はそんなふたりを見ながら無言で立ち去った。