心ときみの物語
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それから数日が過ぎて、俺はいつもどおりのんびりと目を覚ました。寝癖のままポリポリと背中を掻いて、とりあえず日光でも浴びとくかって感じで外へ。
御神木に止まるスズメにまで冷めた目で見られたのは見なかったことにして。
ふと、拝殿の扉に目を向けるとそこに〝なにか〟が挟まっていた。
「エニシさま!いつまで寝てるんですか!」
そのあと、また俺はゴロゴロとして。そうしている内に小鞠が勢いよくやって来た。
「うるせーな。起きてるよ」
「あれ?珍しい」
いつか子どものようにダイブして起こしに来そうだよな……。そしたらヘッドロックでも食らわすか。
「クリームたっぷりの大判焼き食べます?」
「またファンからもらったのか?」
「違いますよ。自分で買いにいったんです。エニシさまのお金で」
「はあ?」
財布からは小銭が消えていた。
小鞠を叱ってやろうと思ったけど、今日の俺は少しだけ気分がいい。大判焼きを食べながら先ほど扉に挟まっていたものを天井にかざす。
【エニシさまありがとう。テレビが壊れたらいつでも】
そう名刺の裏側に丁寧な文字で書かれていた。
本当にお人好しなやつ。
淳平と俺との縁は切れた。だからあいつの瞳に俺が映ることはない。それでも……。
「あ!だれが二個食べていいって言ったんですか!」
小鞠の猛攻を肘で阻止しながら、俺の日常は変わらない。
ひとつだけ違うことは、まだあのハッピーエンドの余韻が消えないことぐらい。
何年先でも、どれだけ時間がかかっても、あのふたりが結婚したら……。
全力で祝福してやろうと思った。