心ときみの物語
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その日の夜。俺は小鞠が作った塩むすびを食べながら、ギシギシと体重をかけただけで軋む拝殿の階段に座っていた。
空には誰かが割ったみたいな半月が浮かんでいて、ざわざわと御神木の木が揺れている。
そんな中、忍び足で石段を上ってくる影。
その手には〝裏絵馬〟。それを胸に押しつけながら掛け所の周りを行ったりきたり。
「それをかけないと願いは聞いてやらねーぞ」
「……きゃっ!」
俺の存在に気づいてなかったらしく、暗闇で声を出したら想像以上に驚かれて〝つぐみ〟は腰を抜かせた。
「おい、大丈夫かよ?」
俺は塩むすびを全部口に頬張って口を動かしながら手を差し伸べると、つぐみはまたもや悲鳴。
「ひぃぃ。近寄らないで。変質者!」
「だれが変質者だ、こら」
つぐみが小鞠から裏絵馬を貰いにきたのは数日前のこと。そこに縁切りをしたい相手の名前を書けば、遠くにいても俺に伝わる。
――花咲宗一郎(そういちろう)
これがつぐみの書いた名前。