心ときみの物語
「お前の妹は人懐っこいよなあ」
「昔からそうだよ。まゆかは明るくて誰にでも話しかけちゃうタイプだから」
まゆかの話をしているつぐみの顔は穏やかで、
俺はその横顔をじっと見つめた。
「な、なに?」
「そうやって普通の顔してれば可愛いのに」
「なっ……」
どうやらつぐみはずっと眉間にシワを寄せていることに気づいてなかったらしい。
「なんなの可愛いとか。チャラすぎ。あんた本当にエニシさまなわけ?偽物なんじゃないの?」
つぐみの目は泳いでいて口調も早口。
「偽物じゃねーし。ってか逆にお前の中で想像してたエニシさまはどんな感じだよ」
依頼者の大半がいつも本物かどうか確かめる。
もう慣れてしまったけど袴を着て頭に烏帽子(えぼし)を被って、手に笏(しゃく)でも持ってりゃ疑われないってか。
「だって噂ではエニシさまは神々しい人で優しくて凛としてて。その包容力で悩みをなんでも受け入れてくれるって……。依頼者が不安を残さないように縁切りもそつなくこなすって言ってた」
誰だよ。俺のイメージを拡大させたヤツは。
「神々しいだろ」
少し胸を張ってみた。
「なんかそこら辺にいそうな感じ」
「………」
なにそれ。個性がないって言われてるみたいで逆に傷つくんだけど。