心ときみの物語


つぐみはアルバイトを掛け持ちしていた。

ひとつは学校がはじまる前のコンビニで早朝からアルバイト。もうひとつは学校が終わって家の家事や夕ごはんの用意をしてから近所の蕎麦屋で22時まで働いているらしい。


「あーだから若いのにこんなに手が荒れてんのか」

「……な、さ、触んないで!」

「いて」

軽く手に触れただけなのに思いきり叩かれてしまった。

俺とつぐみとの縁ができて、その中で気づいたこと。それは……。


「お前ってそんなに派手な顔してるのに、さては全然男遊びしてねーな?」

可愛いと言っただけで動揺して。俺との距離感は縮まらないのに何故か小鞠には気を許している。

普通に考えて警戒しているというより、男に慣れていない。


「は?なにそれ。男とかいらないし恋愛とかも興味ないから」

つぐみはまたムスッとした。そのあと少し遠い目をしながら言葉の続きを加える。


「……私はまゆかがなに不自由ないように育ってくれたらそれでいいの」

だから自分は犠牲になってもいい。俺にはそう聞こえた。

「まだ若いのにね」
「……じじい」

「は?俺はまだ23だ」

そんな話をしながらたどり着いたのはつぐみが住む平屋の家。
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