心ときみの物語
以前は一軒家に住んでいたらしいけど、父親が会社を辞めてローンが払えなくなったからこの家に引っ越したんだとか。
それでも毎月の家賃や光熱費を払うだけで生活はギリギリで。つぐみが働いたお金は月末には1円も残らないと言っていた。
決して綺麗とはいえない家の外装。周りの立派な一軒家と比べると余計に。
「あれが父親」
つぐみが指差したのは道路沿いに面した家の窓。カーテンは半分取れかかっていて、中の様子がはっきりと見える。
「酔って暴れてカーテンのレールも壊しちゃったの。直すお金もないし、本当にもう……」と、こんな家に住んでることが恥ずかしいとつぐみは顔を苦くした。
家の中ではつぐみの父親が寝ていて、枕元には一升瓶と缶ビールの空き缶の山。
部屋は荒らされたように散らかっていて、テーブルが引っくり返っていた。とてもじゃないけど、つぐみやまゆかが住んでるとは思えないほどめちゃくちゃだ。
「……2年前からだっけ?」
「うん。お母さんが事故で死んでから」