心ときみの物語


以前は一軒家に住んでいたらしいけど、父親が会社を辞めてローンが払えなくなったからこの家に引っ越したんだとか。

それでも毎月の家賃や光熱費を払うだけで生活はギリギリで。つぐみが働いたお金は月末には1円も残らないと言っていた。

決して綺麗とはいえない家の外装。周りの立派な一軒家と比べると余計に。


「あれが父親」

つぐみが指差したのは道路沿いに面した家の窓。カーテンは半分取れかかっていて、中の様子がはっきりと見える。

「酔って暴れてカーテンのレールも壊しちゃったの。直すお金もないし、本当にもう……」と、こんな家に住んでることが恥ずかしいとつぐみは顔を苦くした。

家の中ではつぐみの父親が寝ていて、枕元には一升瓶と缶ビールの空き缶の山。

部屋は荒らされたように散らかっていて、テーブルが引っくり返っていた。とてもじゃないけど、つぐみやまゆかが住んでるとは思えないほどめちゃくちゃだ。


「……2年前からだっけ?」

「うん。お母さんが事故で死んでから」
< 54 / 171 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop