心ときみの物語


「それからお父さんは人が変わったみたいに酒に溺れて、仕事も無断欠勤が続いてクビになった」

「………」

「定職には就かないし、私たちのことなんてなにも考えてくれない。お母さんの遺影すら飾ってくれないし、なにかあれば八つ当たりして家のものを破壊する。まゆかが大切にしてたクマのぬいぐるみだって……」

「ぬいぐるみ?」

「そう。小さい頃お母さんに買ってもらったぬいぐるみ。それがないとまゆかは寝られないのにあいつがどこかに隠したのよ」

つぐみはギリギリと唇を噛み締める。


「なんで隠したって分かるんだよ?」

「分かるよ!あいつは私たちにイヤなことしかしないの。もしかしたらもう捨てられてるかもしれない。もう本当にうんざり……!」

つぐみはそう言って、窓から見える父親を睨みつけた。

そんな話をしている内に辺りはすっかり夕暮れになっていて、つぐみが慌てて時間を気にした。


「いま何時?私夕飯の買い物に行かなきゃ。それからまだ昨日の洋服が洗濯できてないし、まゆかを迎えに行かなきゃいけないしバイトも……」

そんな慌てるつぐみを見て、俺は強く腕を掴んだ。


「その予定を全部潰して遊びにいこうぜ」

「は?え?遊びに?なに言って……わあ、ち、ちょっと!」

つぐみの返事を待たずに俺は走り出した。
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