心ときみの物語
「望んでるよ!まゆかには母親が必要なの!それにあの状態で三人で暮らすより私とふたりきりのほうがまゆかは……」
「自分の中だけで答えを出すよりまずは本人に聞いてやれ。それから父親にも」
「はあ?なんであんな父親に聞かなきゃいけないの?まともに会話ができるはずがない。もう顔を見るのだってイヤ」
「だからさ……」
「あんたに私の気持ちなんて分からない!!」
つぐみは隣の部屋で熱唱するよりも大きな声を出した。
「できるじゃん。そういう顔」
ずっと自分は大人だって言い聞かせて、誰にも頼らないって気を張って。子どもなのに子どもらしい顔は見せずに、眉間にシワを寄せて耐えるばかり。
だから感情的になるそんな顔が見たかった。
「お前は背伸びして大人になりたがってるけど大人って完璧じゃねーよ。お前が思うよりずっと脆くて、間違えるし、失敗ばかり」
だけどカラオケで発散できるほど大人は簡単じゃない。
弱いくせに人には言えないってプライドだけはちゃんとあって、それを忘れるために酒に溺れて、んで朝がきて。やっぱり忘れられねーって繰り返し。
そんなもんだよ、大人なんて。
「でも結局最後に頼れるのって家族なんだよ。
父親もお前も、頼って、頼られて、そんな関係にはなれねーの?」
「………」
「なりたかったんじゃねーの?」
俺がそう言うと、つぐみの顔が変わった。
「ちゃんと自分の気持ちも伝えて、相手の気持ちも聞いてこい。それでもダメだったら望みどおりお前の願いを叶えてやるからよ」
ポンポンと頭を撫でるとつぐみは目を赤くして、深く頷いた。