心ときみの物語
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カラオケボックスから出た俺たちは星空が浮かぶ外の道を早歩きで進む。バチバチと夜光虫が外灯に群がる中、つぐみはずっと無言だった。
「お姉ちゃん!」
家の近くに着くと小さな公園からまゆかの姿。
まゆかと手を繋ぐ小鞠と目が合ってその視線だけで小鞠は俺が言いたいことを理解したようだった。
「まゆかちゃん、もう少し私と遊んでようか」
「えー。私お姉ちゃんと……」
小鞠が「ね?」と言い聞かせるとまゆかはコクリと首を縦に振る。
「いけるのか?」
俺がつぐみに確認すると、つぐみは決意を固めたように家の玄関のドアを開けた。俺はその様子をカーテンが外れた外側の窓から見守ることにした。
家の中では宗一郎が布団の上で新聞を広げていて、相変わらず近くには酒が転がっている。
「また飲んだの?」
そんな宗一郎を見て、つぐみの顔がまた鋭くなった。
「もう最後の1本だよ。あとでまた買ってきてくれ。金は渡すから」
つぐみの拳が固くなったところで「いい加減にしてっ!」とその声を荒らげた。