心ときみの物語
ボール遊びを終えたまゆかがつぐみの元へと走ってきた。その仲のいい姉妹を見つめながら俺はその背中に投げ掛けた。
「つぐみ。ちゃんと遊べよ。自分のために」
「ばーか」
舌を出して無邪気に笑うつぐみ。振り返るその表情がまるで時間が停止したように止まる。
つぐみの瞳に映るのは風に舞う桜の花びらだけ。
「ねえ、そういえばお姉ちゃん、誰と話してたの?」
隣のまゆかがきょとんとしていた。
大人になると泣けなくなる。
プライドとか、カッコ悪さとか、そういうものが邪魔して泣けなくなるんだ。だから泣ける内に子どもは今のうち泣いとけ。
それで、ゆっくりゆっくりと大人になればいい。
つぐみはニコリと笑ってまゆかの手を繋ぐ。
「大切な友達だよ」
同じ人間がいないように幸せの形も十人十色。
誰もが羨む完璧な形もあれば、ひどく歪で触れれば粉々になってしまうような、そんな脆い形もあるだろう。
その欠片をひとつずつ拾って。
決して元の形とはいえない歪んだものが完成したとしても。もしかしたらそれは誰にも真似できないような美しいものかもしれない。
俺は神社を去るふたりの背中を見つめながら、〝どうか未来が明るくありますように〟とそう繰り返し願った――。