心ときみの物語
猫の姿をした秀之はただじっと八重を見つめるだけ。
話せない、名前を呼べない、抱きしめてることさえも叶わない。だけど姿形を変えても成し遂げたい想いがあった。
「指輪を渡そうとした前日に脳梗塞で倒れて命を失った。なんとか八重に渡したい。だけど隠しておいたはずの指輪が見つからない」
俺は秀之の言いたいことを代弁するように八重に話した。
「遺品の片付けをした時に家のあちらこちらを整理しただろ?どうやら指輪はその時にどこかへ紛れてしまったらしいんだ」
「………」
「探したよ。引き出しや戸棚の中。屋根裏部屋まで全て。そしてようやく見つかったんだ」
それが、幽霊の正体。
八重の顔が汚れていた理由は、説明するなんて野暮なこと。眠っているその顔に触れたかっただけだ。
もう、秀之という人の形はしてないけど、それでも触れてみたかった。それが頑なで無口な愛情ってやつだろ?
「……秀之さん」
八重は猫の姿をしたその手に触れる。