心ときみの物語
大人しいと思えば部屋の片隅で小鞠まで号泣していた。
そういえば〝知らない人がいてビックリして引っ掻いてしまった〟とその謝罪の気持ちも秀之から見えたっけ。
でも本人はもう忘れてそうだし、今はいいか。
「ありがとうございます。エニシさま」
八重は人差し指で涙を拭いながら言った。
「いや、俺はなにもしてねーよ」
ただ八重を運んだり昔話を語ったりしただけのこと。それに……。
「まだ幽霊はもうひとりいるよ」
「え?」
その時、ピンポーンとタイミングよく家のインターホンが鳴った。八重はそのまま玄関に向かって、ゆっくりと扉を開ける。
「……美幸ちゃん……」
八重は息をはくように声を出した。
そこにいたのは30代の女性。その隣にはセーラー服を着た娘も立っていて。俺と小鞠は邪魔にならないように居間ではない仕切りの向こう側の部屋へと移動した。