心ときみの物語
「ごめんね。麦茶しかないけれど……」
八重はテーブルの上にコップを置いた。
重苦しい空気が流れたあと、八重は美幸の顔を見る。
「……まさか来てくれると思わなかったから驚いたわ。実優(みゆ)ちゃんよね?今いくつに……」
なんとか沈黙だけは避けようと八重が娘のほうに話を振ろうとした時「ごめんなさい!」と部屋に響く声。
なぜか美幸は深々と頭を下げていた。
「家に何度も無言電話があったでしょ?あれ私なの……」
そう、もうひとりの幽霊の正体は血の繋がりがない八重の子どもの美幸だった。
美幸はハンカチで口元を押さえながら、ぽつりぽつりと事情を話していく。
「私ね、いま38歳になって娘も中学1年生で。私はお父さん似だから頑固で意地っ張りで、そんな私と接するのは大変だっただろうなって今さら思ってるの」
ちょうど八重と美幸が初めて会った年齢。だからこそ感じてしまうことが沢山ある。
「血の繋がりがある実の娘でさえも時々投げ出したくなる時もあるのに……。私のことを見離さないで懸命にしっかりと育ててくれた」
「……美幸ちゃん」