金木犀の季節に
レッスンの時よりも集中できるのは、きっと、素敵な音を聞けて幸せだから。
存外私は気分屋なのかもしれない。
一小節弾いてから、景色が変わった。
もう一つのバイオリンが加わって、モノクロが、茜色になる。
彼の音は透き通っていた。
私の奏でる旋律に合わせて時折入るピッツィカートが楽しそう。
ずっとこうして弾いていたい、と思った。
なんて気持ちがいいのだろう。
心の中に溜まっていた何かがすーっと抜けていくような感じがした。
クライマックスはpoco piu appassionato(少し情熱的に)に演奏する。
甘美な弦楽器の囁きに、思わずうっとりしてしまう。
そして、最後まで弾き終えて、弓を弦から離したら、どうしようもない切なさに駆られた。
こんなの、経験したことがない。