金木犀の季節に
「俺は八木奏汰(やぎかなた)! よろしくな」
整った口元から白い歯がこぼれた。なんて綺麗に笑うのだろう。
「君は? なんていうの?」
出会ってすぐの時よりも幾分かくだけた口調にほっこりする。
「花奏です。藤井花奏。こちらこそよろしくお願いしますね」
握手を求められた。
恥ずかしさを必死に隠しながら握ったそれは、思っていたよりも大きくて分厚い。男の人の手だ。
「また会えますか?」
恐る恐る尋ねた。これで会えない、と言われてしまったら立ち直れないような気がする。
「うん。会えるよ」
ああ、良かった。
「でも、しばらくしたらいなくなってるかもしれないなあ」
今までと変わらない八木さんの声がした。
しかし、その表情はどこか悲しそうに見えた。