金木犀の季節に
私の表情が暗くなったのが分かったのかもしれない。
八木さんは、手を伸ばさなくても届くところにある花を摘むと、
「あげる」
私の手のひらに乗せた。
金木犀の花だ。
そっと顔を近付けてあと少しの秋を吸い込む。
こんなに小さくても、しっかりと香りを感じられる。
「この花も生きてたんですね」
返事は、なかった。
「えっと、すみません。ちょっとクサすぎましたね」
頭を掻く真似をしてみたけれど、やっぱり八木さんは答えない。
その代わりに、下唇を噛み締めながら、茜空をじっと見つめていて、その姿を私は上目でしか見られなかった。