金木犀の季節に




「こんにちは、花奏ちゃん」


八木さんの白いシャツが風に揺れた。
金木犀が香る。
人と自然が、こんなにも美しすぎるから。
ほら。我慢ができなくなった。



泣くな、自分。すぐ泣く女は嫌われるぞ。



言い聞かせてみても、涙は勝手に溢れてくる。

「すみません、目から汗が……。
だって、ほら。今日、暑いじゃないですか」

聞かれてもいないのに、漫画のような言い訳をしてしまう。格好悪い。

「汗をこれで拭きなさい」

いつもと違うトーンの八木さんの声がした。
そちらを見ると、彼はハンカチを持って、笑っている。

しかも、「汗を拭くにはタオルの方がいいけどね」なんていいながら。


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