金木犀の季節に




「今、何年?」

ありえるような、ありえないような気がして尋ねた。

「昭和十九年だけど、それがどうかした?」
さらりと答えを貰った。
これが本当だとしたら、いろいろと辻褄があってしまう。

バイオリンのことを「提琴」と呼んだり、妹さんの写真が「白黒」だったり。

どれも、平成ではあまり見受けられない。

「私は、平成二十八年、西暦にすると二〇一六年にいるんだ」
「そっか」

奏汰さんの返事は存外あっさりとしていた。
「このご時世でブレザーを着ているし、提琴のことをふつうにバイオリンって呼ぶし。
……どこか浮世離れしているなって思ってた」
だけどね、と彼は続けた。
「君の音楽を聴いたら、そんなことどうでも良くなったんだ」
「……え?」
「飾っていなくて、そのままの気持ちが伝わってくる。



俺は、好きだよ。花奏ちゃんの演奏が。」




それきり、奏汰さんは黙った。

二人の中を秋風が通り抜ける。



「行かないでよ」
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