金木犀の季節に
授業が始まっても、ずっと奏汰さんのことを考えていた。
早く放課後になって欲しいけれど、なって欲しくない。
早く会いたいけれど、会いたくない。
「藤井さん!」
四時間目の社会。
西山に名前を呼ばれて勢いよく返事をする。
驚きすぎて声が裏返ったのが面白かったのか、クラスメイトに笑われた。
「教科書二二三ページの最初のコラムを読んでください」
焦ってそのページをさがすまで、教科書を開いてさえいなかった。
コラムのタイトルを見て、鼓動が早くなった。
「特攻隊員の思い」
思わず声が震える。
さらに読み進めていくうちに、呼吸のしにくささえも感じた。
「……われわれの生命は講和の条件にも、その後の日本人の運命にも繋がっていますよ。
そう、民族の誇りに」
これは西田高光さんという特攻隊の方の言葉だそうだ。
この方も奏汰さんと同じようなことを言っている。
読み終わり、思わず俯いた。
茶色い机に、黒っぽいしみができる。
私は、泣いていた。
「今の藤井さんのように心を込めて読みましょうね」
西山が何か言ったけれど、それに対して何も思う気がしなかった。
ただただ、早く終わってくれと時計を見つめるのみ。