金木犀の季節に
「お母さん、おかえり」
リビングに降りると、母がいた。
「みんな帰ってきてないけど、ご飯にしよう」
「うん」
今日の夜ご飯はカレーだ。
久しぶりの母と二人の食卓。
「修学旅行どこいくんだっけ?」
娘の行事の二週間前になるまで行き先を知らないとは、まったく適当な親である。
「広島と山口」
でも、私にはこのお母さんがちょうどいいみたい。
「うわあいいなぁ。
修学旅行って絶対告白する人とかいるよね」
女学生のように目を輝かせた母を見て、思わず笑ってしまう。
「あはは。お母さんのときからそうだったんだ」
「そうよ〜! 私も告白されたのよ? しかもお相手はサッカー部の男の子。
今思い出しても格好よかったなぁ」
「それで? 付き合ったの?」
「もちろん」
母の青春話を面白いと思う自分を、客観的に見ているもうひとりの自分がいるような気がした。