金木犀の季節に
暖かい日差しが午後のふわふわな空気に溶けていく。
金曜日の六時間目の社会。
先生は、大嫌いな担任の西山だけど、眠らないで聞いていた。
配られたプリントの端に、八木奏汰、と書いてしまって、急いで消す。
シャーペンの芯でできた凹みが目立たないように、さらにそこを塗りつぶした。
今日の授業は、『第二次世界大戦の終結』というタイトルだ。
「一九四五年八月十五日に日本はポツダム宣言を受諾して、戦争が終わりました」
カリカリと板書を写す音が教室に響く。
「この戦争で、アジアで約二千万人の人がなくなりましたが、そのうちの千万人は中国人です。
日本は原爆が落とされたこともあって、被害者意識が多いですが、実は約三百十万人しか死んでないんですね。
私たちはもう少し加害者意識を持つべきだと思います」
三百十万人"しか"死んでない?
加害者意識?
なにそれ。
「しかも特攻とかは美化されてるけど、あれだって単なる人殺しだからね?」
単なる人殺し。
その言葉を聞いた瞬間、私は西山を思い切り睨みつけてしまった。
そして、黙っていることも、出来なかった。