金木犀の季節に
「その言い方はひどいと思います」
クラス中の視線が集まる。
そんなことは、気にならない。
「そもそも戦争に被害者だの加害者だの言うのもおかしいと思うし、三百十万人"しか"亡くなってないって、人の命をどれだけ甘く見てるんですか」
奏汰さんはもう生きられないと決まっていたのに、生きようとしていた。
そんな人たちのことを悪く言われてしまっては腹が立つ。
「それに、特攻はただの人殺しなんて、そういう風にしか感じられないんですか?
特攻隊の人がどんな思いで覚悟を決めたのか知らないくせに偉そうに言わないで!」
最後の方は、叫んでいたかもしれない。
だって、くやしい。
「藤井さんみたいに思っている人なんてあんまりいないからそういう考え方はやめた方がいいよ」
西山が言った言葉は、私の心にさらに油を注いだ。
「たくさんの人が思ってることしか言っちゃいけないんですか?
そんなのっておかしいと思います」
社会教師は一瞬だまり、無視して授業を始めた。
奏汰さんは、「未来と日本国民を守りたい」と言っていたのに、こんな言われ方はあんまりだ。