金木犀の季節に
展示台を、じっくりと見て回る。
ガラスに張り付いてしまいそうな勢いで。
「一撃必沈」と書かれた鉢巻から、メモ帳まで、回天特攻隊の人たちの私物がたくさんあった。
そのなかで私は、あるものを見つけた。
G弦のない、バイオリンだった。
背の高いところから降ってくる爽やかな声も、まっすぐな音も、奏汰さんを彩るすべてが懐かしくて、恋しい。
軽いめまいを起こしながらも、ガラスケースにくっついて、それをよくながめた。
暗い部屋の中で、持ち主をなくしたバイオリンは、さみしげにオレンジ色のライトに照らされている。
もう、あの音色は帰らないのだと実感した。
体中から力が抜けた。
「会いたいよ、奏汰さん」
叶わないと分かってはいるけれど、願ってしまう。
「なにもしらなかった。
あなたがこうして亡くなったことも。」
知っていたのは、特攻隊員ということだけ。
「きっと、辛かったのに、私ばっかり助けて貰っちゃってた」
何も知らなかった自分と、その無神経さが悔やまれる。
伝えたかった言葉も、思いも、全部。
あなたにはもう届かない。