金木犀の季節に



にわかに風が吹く。
季節はずれの金木犀の香りが鼻腔をついた。

そのとき、私は耳を疑った。
バイオリンの音が聞こえる。

タイスの瞑想曲だ。

私は、その場で腕と体とを動かして、目に見えないバイオリンを一生懸命弾いた。
楽しげなピッツィカートも、なめらかなスラーも、はっきりと聞こえる。心を込めた。


「いつの日か、もう一度会おう。」


この思いは届くかな。


演奏が終わったとき、とてつもない切なさを感じた。
これで終わりだと、なんとなくわかったから。




< 87 / 98 >

この作品をシェア

pagetop