金木犀の季節に
「奏汰さん」
「花奏ちゃん」
「奏汰さん」
会いたいと思っていた人を目の前にしても、言葉はそう出てきてくれなくて。
あの大きな手が私に触れて、息が詰まりそう。
「いきなり特攻隊員だって言ったり、何も教えてくれなくて」
「ごめんね」
「奏汰さんが謝ることじゃないの。
私ばっかり話しちゃってごめんね。
こんなに早く会えなくなっちゃうのならもっと……」
にわかに、ふわりとした暖かさに包まれた。
「俺と、出会ってくれてありがとう。」
顔は見えないけれど、奏汰さんはきっと困ったような笑い顔をしているんじゃないかな。
向かい合ったそのとき、消えかけていた彼の腕を掴もうとした。
その手は、虚しく空気を掴んだだけ。
「さよなら、またいつか」
笑顔に花を手向けることなんて出来そうになくて。
それでも必死に手を伸ばす。
奏汰さんはついに見えなくなった。
そのかわりに、私の手のひらには金木犀の花が乗っている。
「いい香り」
空を見た。
「こんなに小さくても、ちゃんと生きてるんですね」
涙を拭った。
「私も頑張って生きるよ」
再び会えた日に、胸を張ってありがとうと言いたいから。