金木犀の季節に
譜面立てに『タイスの瞑想曲』の楽譜を置いた。
今度のコンクールで演奏する予定の曲なのだ。
それから、左肩の上にバイオリンをのせ、顎あてに顎を押し付けない程度に触れさせる。
少しだけ身体を傾けて左の腕を胸の方へ近づけるけど、あくまで密着はさせないように。
左手でネックをもって、ゆびで弦に触れる。
そして、弓は右手に預けた。
「さっき彼の演奏を聴いてどう思った?」
「私もあんなふうに弾きたいと思った。」
自問自答を繰り返す。
あの音に近くなるように。
深呼吸をして、演奏を始めた。