金木犀の季節に
最終楽章【最期の瞬間まで君が】
いよいよ、俺は死ぬ。
振り返ってみると、楽しいことばかりだった。
にわかに、油と機械の匂いが充満する艦内で、あの日の香りを見つけた。鉢巻からだ。
出撃する際、隊長がこの鉢巻に香水をかけてくださった。
「まさか、教え子を行かせることになるなんてな……」
隊長は、潜水学校時代の教官だった。
この人の目が潤うのを見て、俺は「鬼の目にも涙」ということわざの意味を知った。
今更知っても遅いだろうけど。
「艦の中は臭いからな、ふりかけてやろう。
これは、『金木犀』の香りだぞ」
その香りに涙がこぼれそうになって、堪えた。
「ありがとうございます」
「武運を祈る」
このときの隊長の泣きそうな、たくましい表情を、俺は死んでも忘れられないだろう。