金木犀の季節に
そろそろ敵艦に到達したころだ。
ここまでたどり着くのに、敵に見つかり、沈んでしまう可能性あるらしいから、奇跡と言えよう。
あとは、死ぬだけだ。
誇りを持って、最後まで勇ましく。
ふと目を閉じると浮かぶ地元の高台の景色に、手が震える。
ーーー死にたくないと、初めて思った。
お父さん、お母さん、寿音、茅ヶ崎のみんな、
……花奏ちゃん。
会いたい。会いたい。会いたい。
今だって、君の音が耳にこびりついて離れない。
目線を左手首に落としたら、あのG弦が目に入った。
ああ、そうだ。
俺は、君の未来を守りたいんだ。
君がこれからもずっと、その花のような音色を奏でられるように。