冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
クラウスは腕を組み、胡乱げなまなざしをこちらへ向けている。

「ご親族に、ルーシャ・・ルシアナ・ヴィンターハルター様という名前のご令嬢はいらっしゃいませんか?」

クラウスが眉を寄せる。その表情が、小石を投げこまれた水面のようにわずかに揺らぎをみせ、それはすぐに何事もなかったかのように消えてゆく。

「———そんな名の女はいない」
にべもなく言いすてる。

「そう・・ですか」
フロイラはしゅんと肩を落とす。

「その女がどうかしたのか?」

「幼い頃ですが、知り合った方なんです」

ルーシャ。幼き日の忘れえぬ人。大好きな “お姉さま”。

フロイラが物心ついた頃から、フロイラの母は胸を患っていた。
医者から転地療養をすすめられ、空気の澄んだ湖畔地方にある療養所に入っていた。
ふだんフロイラが母に会えるのは、父に連れられてそこを訪れるときだけ。
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