冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
「俺はたしかに、ある種の女が嫌いだ。憎んでいるといってもいい。
鼻にかかった甘ったるい声やら作り笑いやら、ぷんぷん匂う香水やらには、反吐が出る。だがなーーー」

ずい、とクラウスが距離をつめてくる。思わず後ずさるが、狭い馬車の中だ。座席のすみに追いつめられる。

ダンッ、とフロイラの顔をはさむように、クラウスが壁に両手をつく。もう身動きがとれない。

「ーーーべつに男としての欲望がないわけじゃない。
そうしようと思えば、この場でお前のくちびるをふさいでやることもできる」


蛇に睨まれたカエル状態だ。身体は動かず、視線をそらすこともできない。
男性の支配欲、征服欲、フロイラが恐れて憎んでやまないものたち。
自分になすすべはないという絶望感。

「ーーーわたしのくちびるはもう、他の人に捧げたもの。奪うことに意味などありません」

それはささやかな抵抗。

クラウスの双眸が一瞬、揺らぐ。
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