冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
第5章/罠



ここを出よう。いや、出なければ。最初からいるべきではなかったのだから。

痛みとともに決意したフロイラだったが、養われの身の哀しさで、ことはそう簡単ではなかった。

フロイラを侮辱し、くちびるを奪った養い主は、邸に着いた時には馬車を下りる際にさりげなく手を貸してくれた。その手を振り払う気力はなかった。

頬に涙の跡を残して、明らかに意気消沈して帰ってきたフロイラに、メイドたちはおろおろとふためいたが、何も言うことはできず、逃げるようにベッドへ潜りこんだ。

明日になったら、この邸を出ることを告げるのだ。
そう思いながら、ほとんど眠れず夜を明かした。

形ばかりは、いつもと変わることのない朝だった。
朝食の席をすっぽかすこともできない自分の小心さを自嘲しながら、体を引きずるようにダイニングに向かう。

クラウスは常と変わらず席についている。フロイラの食事もテーブルに並んでいる。給仕をするリュカの姿。馴染みになってきた、朝の光景。
今朝は、フロイラの好きなチーズオムレツがほかほかと湯気を立てているが、意味を考えるべきだろうか。
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