冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
「子供だましみたいですけれど、よかったらご用意しましょうか?」

「ありがたいのだけど・・・この邸にカミツレって生えていたかしら」

噴水を囲むように、美しく刈りそろえられた、背の低い生垣や彫刻が配された庭園や、華麗な花々が咲きほこる温室。カミツレは野に生える植物だ。

「裏の小庭なら生えていると思います」
アンナ・マリーはあっさり答えた。

裏の小庭?

北側の使用人棟の陰に、小さな庭があるとアンナ・マリーは説明した。

「知らなかったわ」

初日に炉に行こうとして番犬に襲われる事件があってからというもの、なんとなく邸の裏手に足を向けることはなかった。

「整然と手入れされた前庭と違って、自然の趣を残してる庭なんです。邸の裏ですから、わたしどもでも散策できます」

フロイラにはその時から、予感のようなものがあったのかもしれない。

手をついて、懸命に体を起こす。

「フロイラ様!?」

「お願い、わたしをそこへ連れて行って。その庭を見てみたいの」
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