冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
ネグリジェにショールを羽織って、奇しくもあの夜と同じ格好でアンナ・マリーとともに小庭に向かう。

「フロイラ様、無理はなさらないでください」

「いえ・・・だいじょうぶよ」

アンナ・マリーにすまないと思う。クラウスに見つかったら、きっと咎めを受けることだろう。
起き上がって動けるならば、他に果たさなければならない務めがある。

それは承知している。ただ今は・・・

「こちらです」


棟を回りこんで、眼前に広がる風景。
フロイラは一瞬、時間を遡ったような錯覚に襲われた。

あの、夏の日の庭が、そこにあった。

半月型の花壇、芝生のあちこちへと伸びる小径。
ブランコが下がったポプラの木。
枝を広げるイチイの木。ツゲの茂み。ガラス張りの小さな温室。

あのルーシャといた庭園は、ほぼ四角形をしていたはずだ。一方が建物に面して残りはレンガ塀と生け垣に囲われていた。

この小庭もそれを模したのか、わざわざ作られたようなレンガ塀が木立を透かして見え隠れてしている。

降りそそぐ日差しも、陽をすかす葉脈までもが、なぜだかそっくりに感じられた。

「信じられない・・・どうして・・・」
くちびるから、呆然と声がもれる。

「フロイラ様、どうなさいました?」

アンナ・マリーの呼びかけにも、返事をすることができなかった。
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