冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
ほどなく、数人の野太い声と足音が聞こえてきた。
たれ下がる木の根の隙間からおそるおそる小道のほうを見上げる。

「どっちだ」
「あっちへ行ったぞ」
「逃がすな!」

あたかも獲物を追っているかのようだ。泥のついた靴とズボンの裾がどやどやと通り過ぎる。

お姉さまーーー

彼らはフロイラに気づくことなく、行ってしまった。


その後の記憶は、曖昧でとぎれとぎれだ。

泣きながら農場をひとりで歩いていた。

農夫に「お嬢ちゃん、こんなところにひとりでいたら危ないよ。林の奥には浮浪児やらゴロツキがうろついているという話だし」と声をかけられて、荷馬車で療養所まで送ってもらった。

ルーシャの住む屋敷へとふたたび足を運んだのは、翌日だろうか、それとも数日たっていただろうか。

そこにあったのは、門扉を閉ざし人気のなくなった屋敷だった。
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