冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
乗馬は貴族の嗜みとはいえ、レディが馬の匂いを染みつかせているのはいかがなものか。
そのようなわけで、クラウスと乗馬に出ることになるまで、フロイラは厩舎に足を運んだことはなかった。

「多少なりとも金をかけているのは馬くらいだ」とクラウスが語るだけあって、厩舎も並ぶ馬たちもそれは立派なものだった。

馬の美しさと優しい瞳に、フロイラはたちまち魅了された。
馬丁に付き添われながら、おっかなびっくり持ってきた角砂糖やニンジンのかけらを手のひらに乗せて食べさせた。

「首すじをやさしく叩いてやると、喜びます。ちょくちょく顔をお出しになるとすぐに仲良しになれますよ」

「そうするわ」
馬丁の言葉にうなずいた。


クラウスはゆるやかな足並みのまま、ブラウンメイを林の奥へと進めてゆく。

はっきりした記憶があるわけではない。
あの時は、周りの景色を見るゆとりなどどこにもなかった。
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