冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
ぽっかりと景色が開けて、静かな湖面に吸いこまれるようにように、自分はーーーー


「この湖で、お前を見つけた」

ブラウンメイをとめ、湖面に視線を向けてクラウスが口をひらく。

「ーーーはい」

「あの日、狩りに出かけて」と言葉を続ける。「お前を見つけることができて幸いだった」

「はい」

彼が幸いと言ってくれることが嬉しいと、心の底からそう感じる。

「あれから様々なことがあった」

長いような短いような、過ぎ去ってしまえばあっという間の日々。こんなふうに再び湖を眺める日がくるなど、あの時は想像もできなかった。


「お前を決して離さないーーーと、前にも言ったか」

「うかがいました」

「何度言っても足りない気がする」

「クラウス様・・」

「不安なんだろうな。お前の心が移ろうのが」

「そのようなこと・・・」

あるはずがないと、この胸の内の気持ちを取り出して見せることができたら。

何度彼に危地を救ってもらったのか。
それを思えば、彼を信じる心が揺らぐなどありえないことだ。


だがーーー

曇りないはずのその心は、無惨に砕ける。

クラウスの抱く不安は的中する。

この時はまだ、知るすべもなかったけれど。
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