冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
鍵はかかっておらず、少し軋んだ音をたてて扉が開いた。埃っぽくこもった匂いに、ふだん使われていない部屋だとすぐに察しがついた。

後から棟が増築されたために、外部に面していた壁がふさがれてしまったようだ。
フロイラが開けた扉から流れこむ光が、室内を薄ぼんやりと浮かびあがらせる。
むき出しの梁が無骨な印象を与える、そう広くもない殺風景な部屋だった。

蝶は・・・いたわ。

あてどもなく邸内をさまよっていた蝶は、光に導かれるように迷いなく扉から部屋の外へと黄色い翅をひらめかせる。

そうそう、そっちよ。

そして、開け放してあった廊下の窓から、ふわりとふたたび自由な世界へと飛び去った。

よかったわ。

ホッと胸をなでおろし、なんの気なしに最後に部屋を見回したところで、フロイラはそれに気がついた。

ぽつんと一つ、部屋に置かれている物がある。
正確には、白い布に包まれて壁に立てかけるように置かれている。それ以外、この部屋には家具一つない。
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