冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
ぼかした色合いの背景に、椅子の茶色い背もたれだけが濃い色で画面をひきしめている。

透き通るような肌、ふさふさとたれるプラチナブロンドの巻き毛、まとうドレスのひだや光沢、レースのかろやかさまでも、巧みに描き出している。

ああ、この瞳!

こちらをまっすぐ見つめる、揺るがない意思を秘めた黒の瞳。表情はあくまでも硬く、くちびるは結ばれ笑みはない。

描いた画家は、この少女の内面までも写しとっているのだ。
幼い少女でありながら、あどけない愛らしさよりも、成熟したたたずまいさえ見るものに感じさせる。

「見つけた・・・」

ようやくまた会えた。叶うなら、この絵の中へ飛びこんで、抱きしめたいとさえ思う。

「ルーシャ・・・」

少女を見つめ、キャンバスの表面をそっと指で撫でてみる。
描かれた姿を見ただけで、胸は理屈をこえて締めつけられ、瞳はうるみ始めている。

どんな困難があろうと、目をそらすことなどできない。
真実を、ルーシャのたどった運命を知らなければならないという思いが、身体をつらぬく。
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