冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
扉から差し込む光が、ふと翳る。
顔を上げようとしたのと、その声が響き渡ったのは同時だっただろうか。

「そこで何をしている!」

弾かれたように、そちらへ顔を向ける。

「クラウス様・・・」

絵に夢中で、まるで気配に気づくことができなかった。逆光で表情ははっきりとうかがえない。
だが怒気をはらんだ声と、拳をにぎった立ち姿はフロイラを震え上がらせるのに十分だった。

つい先ほどまでの決意までくじけてしまいそうだ。むき出しの怒りにさらされるのは、やはり恐ろしい。

何をしている、と向けられる言葉は質問ではなく難詰だ。
言いつけを破った場を見つけられた子どもかのような錯覚を覚える。

「もうしわけありません、勝手に入るつもりは・・・」
なんとか事情を説明しようとする。

「蝶が部屋に迷いこんだので、逃がそうとして、絵を見つけてしまって・・・」

クラウスの態度には軟化する気配すらない。無言で歩を進めてくる。
< 200 / 273 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop