冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
「クラウス様、この絵はーーー」

フロイラの言葉をさえぎるように、いきなりーーークラウスの足が振り下ろされた。

バキイッ

足蹴にされるルーシャと、ほとばしるフロイラの悲鳴。

「やめてえっ」
無我夢中でクラウスの足にしがみつく。

なおもクラウスは力を込めて、絵を踏みにじる。完全に壊そうとしている。衝動の激しさに、彼の怒りが伝わってくるようだ。

でも、なぜ、なぜーーー?

驚きと混乱と悲しさと。かき乱されながら、必死で彼の足の下から絵を救おうとする。
「足を離してください」

ルーシャを傷つけないで。

「どうしてこんな真似をされるのです!?」

忘れろ、クラウスの声は荒く低かった。
「お前はこんな絵など見なかった」

「いいえ、いいえ! 忘れられません」
叫ぶように言う。

「この方は、ルシアナ・ヴィンターハルター様。クラウス様のご兄弟ではありませんか?
教えてください、この方は今どこにいるんですか?」
彼を見上げて問う。
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