冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
どのくらいそうしていただろうか。

しばらく嗚咽をもらしていたような気もするし、ひどく短い時間のようでもある。

「ーーー顔を上げろ」

クラウスの言葉に従い、顔をのけぞらせるように彼を見上げる。
さぞかし無様な泣き顔をしていることだろう。

とどまることを知らない涙が、視界をさえぎる。

それでも自分に落とされる彼の眼差しが、不思議と穏やかな色をしていると感じる。

「俺は、お前を失いたくない」

「・・・クラウスさま」

「だから後悔しないと、二度とその命を捨てるような真似はしないと、誓え。
そうすればこいつに会えるだろう」

靴でかるく絵を叩く。

フロイラに選択の余地があろうはずがない。

「ーーー誓います」

クラウスは小さくうなずいたかと見えた。

ざっと絵から足を離すと、そのまま一言もなく部屋を去ってゆく。
逆光にぼんやりとにじむ彼のシルエットが、ひどくはかなく映った。
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