冷徹侯爵の籠の鳥~ウブな令嬢は一途な愛に囚われる~
沈鬱な雰囲気を引きずったまま、自室へさがり足は自然とルーシャの絵のものへ。

描かれていた少女はもう損なわれてしまったけれど、彼女の存在をしのばせる唯一のものだ。
キャビネットの上に置いた絵に近づいてすぐに、フロイラは “そのこと” に気づいた。
何かが、布の上で光をはね返してきらめいている。

左胸の奥が、ドクンと跳ね上がる。

小さな銀のアルファベットの、チャーム。
U、L、A、C、S・・・五つ。間違いない、ルーシャがいつも手首につけていたブレスレットの彼女の名だ。鎖にとおすための環が、それぞれについている。
なにかが、引っかかった。既視感ではない、いうなれば違和感だ。この字になにかが・・・

正体を掴もうにも、いま見たばかりの夢のように、その感触はするりと逃げてゆく。

それと小さく折りたたまれた紙片があった。
ふるえる指で、紙を広げる。そう上手ではない字で『明け方、約束の場所で』と記されていた。
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